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仙台地方裁判所古川支部 昭和55年(わ)164号 決定

少年 K・T(昭三七・二・二二生)

主文

本件を仙台家庭裁判所古川支部に移送する。

理由

被告人は、自動車運転の業務に従事するものであるところ、昭和五三年四月二日午前九時五〇分ころ、自動二輪車を運転し、古川市○町×番××号先国道一〇八号線を、○○○町方面から同市○○町方面に向かつて時速約四〇キロメートルで進行していたが、同所は、商店街で当時日曜日のため歩行者も多く、宮城県公安委員会が道路標識によつて最高速度を三〇キロメートル毎時と定めていたのであるから、自動車運転者としては、右最高速度以下で運転することは勿論、前方左右を注視し、横断者等の早期発見に努め、進路の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速約五〇キロメートルに加速しながら左折する前車に気をとられ、一時前方注視を欠いて進行した過失により、折から自車の進路前方を左方から右方へ横断中のA子(当時六〇年)を約一〇・八メートルの距離において初めて発見し、狼狽のあまりなんらの措置もとり得ず、自車前部を同女に衝突させて肋骨骨折・肺損傷等の傷害を負わせ、よつて同日午後一〇時四五分同市△町×番××号所在の○○病院において、同女を右傷害にもとづく出血により死亡するに至らせたものであつて、以上の事実は被告人の当公判廷における供述その他当公判廷において取調べた関係各証拠上明らかに認めることができ、これを法律に照らすと、右事実は刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第三条等一項一号に該当する。

よつて被告人の処遇について検討するに、一件記録によると、被告人は自動二輪車を運転走行中、危険な場面での緊張を欠いたため、判示のごとき死亡事故を惹起したもので、過失の程度、結果とも重大というべく、事故時被告人は免許取得後わずか三週間位であつて、本来一層控え目な運転に徹すべきであるのに、これを怠り、本件事故を惹起するに至つた運転態度、運転適性にもかなり問題があつたこと、当初、被告人において示談交渉に誠意を示しえなかつたことを考えると、被告人の行為に対しては、成人同様の刑事責任を問うことが相当と思料されないではない。

しかし、何分、被告人は、犯行当時一六才で、現在一八才の可塑性に富む少年であり、本件事故についても被害者に全く落度なしとせず、家庭の事情等で示談が遅延するも現在成立に至つていて遺族の被害感情も良好であること、被告人は家裁での処分歴や反則歴もなく、中学卒業後、自動車板金塗装工場に勤務するかたわら定時制高校でまじめに勉学し、父兄の指導監督も十分期待できること、反省の情も顕著であること等の諸事情を併せ考慮すると、被告人に対し刑事処分を科するよりは、被告人の反省を深めるとともに矯正教育の実をあげるため被告人を保護処分に付するのが相当と考えられるので、少年法第五五条により、本件を仙台家庭裁判所古川支部に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 千葉勝郎)

〔編注〕受移送審決定(仙台家古川支昭五五(少)二九一号昭五五・六・九保護観察決定)

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